前回は、「ICU看護は何から勉強すればよいのか」をテーマに、私なりの「学びの地図」を紹介しました。
今回は、その地図を使って、実際に少し歩き始めてみたいと思います。
最初のテーマは、ショックです。
この患者さんは、ショック?
はじめに、架空の事例を考えてみましょう。
消化管手術を受けた術後1日目のAさん(68歳、体重50kg)
- 血圧:108/72 mmHg
- 心拍数:112回/分
- 呼吸数:24回/分
- 尿量:20mL/時
- 手足が冷たい
- 毛細血管再充満時間:3秒
- 乳酸値:3.8 mmol/L
モニターのアラームは鳴っていません。

血圧は下がっていませんね。…ということは、ショックではないのでしょうか?

血圧だけを見ると、そう思うかもしれないね。でも、心拍数、尿量、皮膚、毛細血管再充満時間、乳酸値も一緒に見てみよう。
ショックは「低血圧」と同じではない
「ショック」と聞くと、「血圧が低い状態」を思い浮かべるかもしれません。
しかし、ショックと低血圧は同じものではありません。
身体には、重要な臓器への血流を保つために、心拍数を増やしたり、末梢血管を収縮させたりする代償機構があります。
そのため、循環に問題が起きていても、初期には血圧が保たれることがあります。
先ほどのAさんも、血圧だけを見ると大きな異常はないように見えます。
しかし、次の所見を組み合わせると、組織への血流や酸素供給が不足している可能性を考える必要があります。
- 心拍数が増えている
- 尿量が少ない
- 手足が冷たい
- 毛細血管再充満時間が延長している
- 乳酸値が上昇している
2025年のESICMガイドラインでも、ショックの評価では単一の数値だけに頼らず、組織灌流を繰り返し評価することが重視されています。
血圧が保たれていても、組織へ十分な血液と酸素が届いているとは限りません。
ショックの本質は、細胞へ酸素が届かなくなること
ショックは、生命を脅かす急性循環不全です。
その本質は、血圧の数字そのものではなく、細胞や組織が必要とする酸素を十分に利用できなくなることにあります。
私たちの身体では、肺から取り込まれた酸素が血液に乗り、心臓と血管によって全身へ運ばれます。
ところが、この仕組みのどこかが破綻すると、組織へ十分な酸素を届けられなくなります。
その状態が続けば細胞の働きが損なわれ、やがて臓器障害へ進む可能性があります。

ここでは、この式を覚える必要はありません。
まずは、組織への酸素供給が「血液が運べる酸素の量」と「心臓が送り出す血液の量」によって決まることを押さえておきましょう。
酸素供給量の式については、別の記事であらためて詳しく扱います。

血圧が低いかどうかだけではなく、細胞に酸素が届いているかを考えるんですね!

そう。モニターの数字だけではなく、患者さんの身体全体を見ることが大切なんだ。
循環を「タンク・ポンプ・パイプ」で考える
血液を全身へ届ける循環の仕組みを、ここでは次の3つに分けて考えてみます。
タンク
酸素を運ぶための血液です。
循環を維持するためには、十分な血液量が必要です。
ポンプ
血液を全身へ送り出す心臓です。
血液量が十分にあっても、心臓が送り出せなければ組織へ届きません。
パイプ
血液の通り道となる血管です。
適切な血管の緊張が保たれ、血液が滞りなく流れる必要があります。

血圧が低下したとき、すべての患者さんへ同じ対応をすればよいわけではありません。
タンクの問題なのか、ポンプの問題なのか、パイプの問題なのかによって、必要な治療の方向が変わるからです。
まず結論――ショックの4分類
ショックは、循環のどこに主な問題があるのかによって、大きく4つに分類できます。

4分類は名前を丸暗記するためではなく、循環のどこに問題が起きているのかを整理し、治療の方向を考えるための地図です。
1.循環血液量減少性ショック――タンクの中身が足りない
循環血液量減少性ショックでは、血管の中を循環する血液量が不足しています。
代表的な原因は出血です。そのほか、嘔吐、下痢、熱傷などによる体液喪失でも起こります。
血液量が減ると、心臓へ戻る血液が減少します。すると、心臓から送り出せる血液量も減り、組織へ届く血流と酸素が不足します。

治療の基本的な方向:出血などの原因を止め、有効な循環血液量を回復させる。
2.血液分布異常性ショック――パイプが広がりすぎる
血液分布異常性ショックでは、血管の緊張が失われ、血管が広がることなどによって、血液の分布に異常が起こります。
代表例は、敗血症性ショック、アナフィラキシーショック、神経原性ショックです。
血液そのものが急になくなったわけではなくても、広がった血管に対して、相対的に循環血液量が不足した状態になります。

治療の基本的な方向:原因へ対応し、循環血液量や血管の緊張を調整する。
3.心原性ショック――ポンプの力が弱い
心原性ショックでは、心臓がポンプとして十分な血液を送り出せなくなっています。
急性心筋梗塞、重症心不全、心筋炎、重篤な不整脈などが原因になります。
血液量が十分にあっても、心臓が送り出せなければ、組織へ届く血流は低下します。
さらに、送り出せなかった血液が心臓の手前に滞り、肺うっ血や静脈うっ血を生じることもあります。

治療の基本的な方向:原因となる心疾患へ対応し、心臓が血液を送り出す働きを支える。
血圧が低いからといって、すべての患者さんへ一律に輸液を行えばよいわけではありません。
4.閉塞性ショック――パイプの通り道が塞がる
閉塞性ショックでは、心臓へ入る血液、または心臓から出ていく血液の通り道が、物理的に妨げられています。
代表的な原因には、次のものがあります。
- 肺血栓塞栓症
- 心タンポナーデ
- 緊張性気胸
それぞれ原因は異なりますが、ポンプは元気でも血液の流れが妨げられ、最終的に心臓から十分な血液を送り出せなくなります。

治療の基本的な方向:血流を妨げている原因を取り除く。
実際の患者さんでは、複数の機序が重なる
ここまで4つに分けて説明しましたが、実際の患者さんが、きれいに一つの分類へ収まるとは限りません。
たとえば、次のような場合があります。
- 敗血症に心機能低下を合併する
- 外傷による出血と緊張性気胸が同時に起こる
- 心原性ショックの経過中に感染症を発症する
- 循環血液量減少と心機能低下が重なる

4つから一つを選ぶのではなく、患者さんの中で何が起きているのかを整理するために使うんですね。

そのとおり。4分類は、患者さんの病態を考えるための地図なんだ!
看護師は、3つの問いで考えてみる
1.タンクは十分か?
循環する血液量が不足していないか。
2.ポンプは働いているか?
心臓が十分な血液を送り出せているか。
3.パイプの状態はどうか?
血管が広がりすぎていないか、血液の通り道が妨げられていないか。
同じ「血圧低下」という所見でも、タンク、ポンプ、パイプのどこに主な問題があるのかによって、治療の方向は大きく変わります。
そのため、看護師も血圧の数字だけではなく、患者さんの背景、発症経過、意識、皮膚、尿量、呼吸、治療への反応などをつなげて捉える必要があります。
まとめ
ショックは、単に「血圧が低い状態」ではありません。
その本質は、細胞や組織へ必要な血液と酸素を十分に届けられない、生命を脅かす循環不全です。
- 循環血液量減少性:タンクの不足
- 血液分布異常性:パイプの拡張
- 心原性:ポンプの不調
- 閉塞性:ポンプの閉塞
大切なのは、分類名を丸暗記することではありません。
循環のどこに問題があり、患者さんの身体で何が起きているのかを考えることが大切です。
もう少し詳しく学びたい方へ
今回紹介したショックの病態生理については、「なんとなくからの脱却!病態生理から紐解く代謝・栄養管理」の講義②ショックの病態生理で、私が解説を担当しています。
そのほかにも、選りすぐりのメンバーでスキマ時間に受講できるようになっています。

最終締め切りが2026年9月14日(月)で、学会から受講証も発行されますので、是非受講してみてください。
次回は、「血圧が低ければショックなの?」という疑問から、意識、尿量、皮膚、呼吸、乳酸値などを通して、組織灌流をどう捉えるかを考えていきます。


