PICSは何で、いつ評価する?――退院後の暮らしにつなぐ4つの視点

2026年10月、内容を更新しました。

集中治療室(Intensive Care Unit:ICU)を出られた。それは大きな一歩です。でも、入院前と同じように歩けるか、物事を覚えられるか、安心して眠れるかは、退室できたという事実だけでは分かりません。

この記事では、集中治療後症候群(Post-Intensive Care Syndrome:PICS)を「何で評価するか」に加えて、いつ、何のために確認するのかを整理します。

新人看護師②
新人看護師②

先生、PICSの評価って、筋力を測ればよいのでしょうか。歩けるようになった患者さんにも、ほかに確認することがありますか?

坂コー先生
坂コー先生

あるよ。歩く力が戻っても、覚えることが難しかったり、怖い記憶に困っていたりすることがあるんだ。まず「体・認知・こころ」の3つを見渡して、入院前から何が変わったかを考えよう。評価は、必要な支援を見つけるためにするんだね。

※対話は学習用のフィクションです。

1.PICSとは――入院前からの変化を3つの領域で見る

PICSは、重い病気や集中治療の後に、新たに生じたり悪化したりして続く身体・認知・精神の問題を捉える概念です。2012年の米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine:SCCM)の報告で整理されました。[1]

領域 日々の暮らしで確かめたいことの例
身体 歩くと疲れる、階段がつらい、着替えや入浴に手助けが必要になった
認知 話の内容を覚えにくい、集中が続かない、段取りを組むのが難しい
精神 不安が強い、気分が落ち込む、怖い出来事を繰り返し思い出す

この表は、症状だけで診断するためのものではありません。病気そのものや入院前の状態、薬剤、睡眠、痛みなども含めて、医療チームで評価します。

家族にも不安・抑うつや心的外傷後ストレスなどの問題が生じることがあり、家族の集中治療後症候群(Post-Intensive Care Syndrome–Family:PICS-F)と呼ばれます。患者さんが回復しているかどうかとは別に、家族自身の困り事にも目を向けます。[1,3]

2.何で評価するか――「その道具で何を見るか」を先に考える

2020年に公表されたMikkelsenらのSCCM国際合意報告は、退院後のスクリーニングに用いるツールを整理しています。会議の開催年は2019年です。[2]

スクリーニングは、詳しい評価や支援が必要そうな人を見つける入口です。陽性なら病気が確定するわけではなく、陰性でも本人の困り事を打ち消すものではありません。

見たいこと 2020年の合意報告で挙げられた代表的ツール 初学者が押さえたい意味
認知 モントリオール認知評価(Montreal Cognitive Assessment:MoCA) 記憶だけでなく注意や遂行機能など、複数の認知領域を確認する
不安・抑うつ 病院不安抑うつ尺度(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADS) 不安と抑うつを分けて、本人の回答から症状を捉える
心的外傷後ストレス 改訂出来事インパクト尺度(Impact of Event Scale–Revised:IES-R)、または6項目版(Impact of Event Scale–6:IES-6) 心的外傷後ストレス障害(Post-Traumatic Stress Disorder:PTSD)に関連する症状を拾い上げる
身体・生活への影響 6分間歩行試験(6-Minute Walk Test:6MWT)、および/またはEuroQolの5領域5段階尺度(EuroQol 5-Dimension 5-Level:EQ-5D-5L) 歩行で確認する運動耐容能と、本人が答える移動・身の回りのこと・普段の活動などを補い合わせる

報告内では、MoCA・HADSの推奨は強く、IES-R/IES-6・6MWT・EQ-5D-5Lは弱い推奨です。ここでの強弱は、この合意形成での賛同に基づく区分であり、すべての患者さんへの一律の実施命令ではありません。EQ-5D-5Lも、直接筋力を測る検査とは役割が違います。[2]

その後、日本集中治療医学会のPICS委員会による2023年の研究では、身体・認知・精神だけでなく、日常生活動作、生活の質、睡眠・痛み、家族も含めた評価が整理されました。[4] 学会公式のPICSに関連したスケールにも、日本語で各ツールの説明と関連資料がまとめられています。

もう少し詳しく見たいときの例 何を見るか
Medical Research Councilの筋力合計スコア(MRC sum score)・握力 筋力。歩行能力や生活全体を、これだけで代表させない
Barthel Index 食事、移乗、トイレなどの日常生活動作(Activities of Daily Living:ADL)
ミニメンタルステート検査(Mini-Mental State Examination:MMSE) 見当識や記憶などの認知機能
患者健康質問票9項目版(Patient Health Questionnaire–9:PHQ-9) 抑うつ症状
健康関連の生活の質を測る36項目尺度(36-Item Short Form Health Survey:SF-36) 身体面と精神面を含む生活の質(Quality of Life:QOL)
家族へのHADS・IES-R 患者さんの代理回答ではなく、家族自身の不安・抑うつやストレス症状

2020年のSCCM報告と、2023年の日本の委員会による研究は、別の資料です。 表の道具をすべて同時に行うのではなく、知りたいこと、評価できる状態、時間や人員に合わせて組み合わせます。[2,4]

新人看護師②
新人看護師②

筋力と暮らしやすさも、同じではないのですね。日本語版があれば、私もすぐに使ってよいのでしょうか?

坂コー先生
坂コー先生

日本語版があることと、自由に使えることは分けて確かめよう。正式な用紙や実施方法、必要な研修・利用条件を確認するんだ。それに、点数の後で「何に困っているか」を聞き、相談先へつなぐところまでが大切だよ。

日本語版は、MoCA-J、HADS、IES-R-Jについて検証報告を、EQ-5D-5Lについて国内の公的な紹介を確認できます。[5–8] ただし、それぞれの日本語版の検証対象が、そのまま日本のICU退院患者すべてに当てはまるわけではありません。本記事では検査用紙を転載せず、使うときには各提供元の現行条件を確認してください。

3.いつ評価するか――3か月後まで待たず、回復に沿ってつなぐ

2020年の合意報告では、リスクの高い患者さんを優先し、退院後2〜4週以内から、状態や生活の変化に合わせて繰り返し確認することを勧めています。[2]

ここでいう退院は、ICU退室とは異なります。病棟へ移った時点と、病院から退院した時点を分けて記録します。

時点 確認したいこと
ICU入室時から 入院前の歩行・身の回りの動作、認知面、こころの状態、家族の支援状況
退院に向けて 入院前との違い、残る困り事、評価結果と必要な支援の引き継ぎ
退院後の早い時期 2〜4週以内を目安に、高リスクの人を中心に困り事を拾い上げる
その後のフォロー 回復や復職、生活環境の変化に合わせて再評価する

3・6・12か月などに経過を追う研究や実践もありますが、全員共通の必須日程と考える必要はありません。日本でもPICSのフォローアップが取り組まれていますが、受診できる外来や評価体制は施設で異なります。退院時に「困ったらどこへ相談するか」を具体的に共有します。[2–4]

4.ICUの看護師にできること――次の人が比べられる情報を残す

退院後の評価をICUの看護師だけで完結させる必要はありません。むしろ、入院前からの変化が分かるように、病棟・リハビリテーション職・外来などへつなぐことが大切です。

たとえば、次の4点を申し送る形が考えられます。これは本記事で整理した実践の提案です。

  • 入院前はどこまで歩けて、何を自分でしていたか。本人にとって大切な生活は何か。
  • せん妄の評価、鎮静の状態、睡眠や痛み、離床の経過。検査を実施できなかった理由も含める。
  • 本人が話した記憶や心配事を、医療者の推測と区別して記録する。
  • 家族自身の不安や疲労、相談希望と、次に確認する担当・相談先。
新人看護師②
新人看護師②

入院前の生活が分からないと、今の点数だけでは変化を捉えにくいのですね。退室の申し送りにも、もともとの生活や本人の困り事を入れたいです。

坂コー先生
坂コー先生

そうだね。「何点だったか」に加えて、「前はできたこと」「今困っていること」「次に誰が確認するか」を残そう。退室時の情報がそろっていると、その後の回復を一緒に考えやすくなるよ。

患者さん・ご家族への説明に使える公式資料

日本集中治療医学会のPICS 集中治療後症候群(市民向けページ)では、PICSの説明と動画を紹介しています。同ページには、東京医科歯科大学病院集中治療部作成の 「PICS(ピックス)『集中治療後症候群』をご存じですか?」 の案内もあります。

漫画パンフレットと動画は、制作施設の公開案内ページから確認できます。患者さん・家族とPICSについて話す入口として紹介します。漫画の画像・文章は本記事には転載していません。

関連する勉強ノート

参考文献・資料

  1. Needham DM, et al. Improving long-term outcomes after discharge from intensive care unit: report from a stakeholders' conference. Crit Care Med. 2012;40:502–509. 原著
  2. Mikkelsen ME, et al. Society of Critical Care Medicine's International Consensus Conference on Prediction and Identification of Long-Term Impairments After Critical Illness. Crit Care Med. 2020;48:1670–1679. 原著書誌・抄録
  3. 日本集中治療医学会. PICS 集中治療後症候群・PICS-F.
  4. Nakanishi N, et al. Instruments to assess post-intensive care syndrome assessment: a scoping review and modified Delphi method study. Crit Care. 2023;27:430. 原著
  5. Fujiwara Y, et al. Brief screening tool for mild cognitive impairment in older Japanese: validation of the Japanese version of the Montreal Cognitive Assessment. Geriatr Gerontol Int. 2010;10:225–232. 原著書誌・抄録
  6. 東あかねほか. 消化器内科外来におけるhospital anxiety and depression scale(HAD尺度)日本語版の信頼性と妥当性の検討. 日本消化器病学会雑誌. 1996;93:884–892. 原著
  7. Asukai N, et al. Reliability and validity of the Japanese-language version of the impact of event scale-revised(IES-R-J): four studies of different traumatic events. J Nerv Ment Dis. 2002;190:175–182. 原著書誌・抄録
  8. 国立保健医療科学院 保健医療経済評価研究センター. EQ-5D-5L日本語版の紹介.