ある日、卒業生の新人看護師から、こんな相談を受けました。

坂コー先生、ICUに配属されてから、やることがいっぱいすぎて……。何から勉強すればいいのか分かりません
人工呼吸器、心電図、血液ガス、薬剤、輸液、ドレーン、疾患、検査データ……。
ICUに配属されると、学ばなければならないことが次々と出てきます。
勉強しても、分からない言葉がさらに増えていく。
周りの先輩はたくさんのことを知っているように見えて、「自分は何も分かっていない」と不安になることもあると思います。

分かる、分かる。ICUの勉強は膨大で、果てしなく感じるよね。全部を一度に覚えようとすると、圧倒されてしまうと思う
でも、最初からすべてを覚える必要はありません。
まずは、自分が今どこを勉強しているのかを確認できる、「学びの地図」を持つところから始めてみましょう。
まずは「学びの地図」を広げてみよう
私が考える、ICU看護の学びの地図は次のようなものです。
ICU看護を学ぶ6つの視点
- 正常な身体の仕組みを知る
心臓・血管・肺・血液が、組織へ酸素を届ける仕組みを学ぶ - 組織に酸素が届かなくなる仕組みを知る
ショックの病態と、身体の中で起きている変化を学ぶ - 患者さんに現れる変化を捉える
バイタルサイン、意識、尿量、皮膚、呼吸、検査値を結びつける - 治療の目的を理解する
酸素療法、輸液、輸血、昇圧薬、人工呼吸などが、何を変えようとしているのかを考える - 治療を受ける患者さんを看護する
治療の効果と有害事象を捉え、苦痛の緩和、安全、合併症予防、回復を支える - 患者さんと家族の生活・意思を支える
コミュニケーション、家族支援、意思決定、倫理、ICU退室後の生活まで考える
これは、「必ずこの順番で、すべてを完全に覚えなければならない」という意味ではありません。
国内外の集中治療看護コンピテンシーを参考に、私が少し整理したものです。
自分が学んでいる知識が、この地図のどこに位置しているのか。
その知識が、患者さんの観察や看護にどうつながるのか。
それを見失わないための地図だと考えてください。
なぜICU看護の勉強は果てしなく感じるのか
ICU看護の勉強が難しく感じられる理由は、単に覚えることが多いからではありません。
ICUでは、次のような内容を学ぶ必要があります。
- 疾患と病態
- 解剖生理
- 医療機器
- 薬剤
- 検査データ
- フィジカルアセスメント
- 患者さんの苦痛や心理状態
- 家族への支援
- 多職種との連携
- 倫理的な判断
これらを、目の前の患者さんの状態に応じて組み合わせる必要があります。
人工呼吸器の設定を覚えることも、薬剤の作用を覚えることも大切です。
しかし、その知識が患者さんの身体の中で起きていることと結びつかなければ、「では、この患者さんをどう観察して、どう看護するのか」まで進むことができません。

血圧、尿量、SpO₂、乳酸値を、全部別々に覚えないといけないんですか?

一つずつ覚えることは必要だけど、患者さんの身体の中では、全部つながっているんだよ
この「つながり」を理解する入口として、私はまず、ショックを中心に解剖生理と病態を学ぶと分かりやすいのではないかと考えています。
ショックを入口にして、知識をつなげる
「ショック」と聞くと、「血圧が低い状態」を思い浮かべるかもしれません。
しかし、ショックを血圧だけで考えることはできません。
ショックの本質を理解するためには、まず次の問いを考える必要があります。
患者さんの細胞や組織に、必要な酸素が届いているだろうか?
組織へ酸素を届けるためには、肺から酸素を取り込み、血液中のヘモグロビンに乗せ、心臓と血管によって全身へ運ばなければなりません。
そのため、ショックを理解しようとすると、自然に次のことを学ぶことになります。
- 心臓はどのように血液を送り出しているのか
- 血管は血圧や血流をどのように調整しているのか
- 肺で取り込まれた酸素はどのように運ばれるのか
- ヘモグロビンはどのような役割を持つのか
- 循環血液量が減ると身体に何が起こるのか
- 心臓の働きが低下すると何が起こるのか
- 血管が過度に拡張すると何が起こるのか
- 血流が妨げられると何が起こるのか
さらに、患者さんの意識、尿量、皮膚の色や冷感、呼吸状態、乳酸値を見る理由も、少しずつつながってきます。
輸液、輸血、昇圧薬、強心薬、酸素療法、人工呼吸といった治療が、「身体の何を変えようとしているのか」も理解しやすくなります。
つまり、ショックを入口にすることで、
解剖生理 → 病態 → アセスメント → 治療 → 看護
を一連の流れとして学ぶことができます。
ただし、ICU看護のすべてをショックだけで説明できるわけではありません。
痛みや不安、睡眠、せん妄、コミュニケーション、家族支援、意思決定、倫理、リハビリテーション、PICSなども、集中治療看護に欠かせない内容です。
ショックは、あくまで膨大なICU看護の学習へ入っていくための、分かりやすい入口の一つです。
ICU看護師に必要な能力は、研究でも整理されている
では、ICU看護師には、実際にどのような能力が必要なのでしょうか。
実は、「ICU看護師に必要な能力」を明らかにし、教育や評価へ活用しようと考えている研究者がいます。
櫻本先生らは、系統的レビュー、フォーカスグループ、3回のデルファイ調査、外部専門家による妥当性確認を行い、日本における「標準的な集中治療看護の臨床実践能力」を整理しました。
最終的に示されたのは、次の6領域です。
- 疾患の治療管理と臨床判断
- ケアリング
- アドボカシーと倫理的実践
- Evidence-based practice
- 協働・マネジメント
- 教育・自己成長
さらに、その内訳は、26の下位領域、99の要素、525の実践指標に整理されています。
疾患の治療管理と臨床判断には、呼吸、循環、消化器・栄養、腎臓、内分泌・代謝、脳神経、感染、治療機器などが含まれます。
一方で、苦痛の緩和、リハビリテーション、PICS、終末期ケア、患者さんと家族の意思決定、倫理、多職種との協働、医療安全、後輩教育、自己成長なども、集中治療看護師に必要な能力として示されています。
つまり、ICU看護は、病態や医療機器の知識だけで成り立つものではありません。
患者さんと家族を理解し、状況を判断し、必要なケアを考え、多職種と協働しながら実践するところまでが、ICU看護なのです。
参考にした文献
Sakuramoto H, Kuribara T, Ouchi A, et al. Clinical practice competencies for standard critical care nursing: consensus statement based on a systematic review and Delphi survey. BMJ Open. 2023;13:e068734.
https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC9884938/
少し個人的な話になりますが、筆頭著者の櫻本先生と初めてお会いしたのは、私が大学院生だった2015年に、筑波大学附属病院のICUを見学させていただいたときでした。当時、憧れの櫻本先生にお会いできたことに感動したのを覚えています。
患者さんに必要な看護から、自分の学びを考える
海外にも、集中治療看護師に必要な能力を捉えるための、さまざまな枠組みがあります。
その一つが、米国クリティカルケア看護師協会(AACN)の「シナジーモデル」です。
シナジーモデルでは、患者さんのニーズによって、看護師に求められる能力も変わると考えます。そして、患者さんのニーズと看護師の能力が適切に組み合わさることで、よりよい結果につながるとされています。
同じショックの患者さんでも、状態の安定性、脆弱性、病態の複雑性、回復力、ケアや意思決定への参加状況は一人ひとり異なります。
だからこそ、診断名や治療だけを見るのではなく、次のように考えることが大切になります。
この患者さんは、いま何を必要としているのか。
そのニーズに応えるために、自分には何を提供できるか。
シナジーモデルは私自身の研究テーマとも関係するため、今回は紹介にとどめ、また別の記事で詳しく取り上げたいと思います。
AACN Synergy Model for Patient Care
では、最初に何から勉強すればいい?

坂コー先生、結局、私は何から勉強すればいいですか?
まずは目の前の患者さんに何が起きているのかを捉えるために、正常な身体の仕組みから確認することを勧めます。
特に、心臓・血管・肺・血液が、どのように組織へ酸素を届けているのか。
そして、その仕組みが崩れると、なぜ意識、尿量、皮膚、呼吸、血圧、脈拍、検査値が変化するのか。
ショックを入口にして、これらを一つずつ結びつけて考えてみましょう。

全部を一度に覚えなくてもいいんですね!

そう。自分がいま学びの地図のどこにいるのかを確認しながら、一つずつつなげていけば大丈夫。一緒に考えていこう!
ICU看護の学習は、膨大な知識をばらばらに暗記することではありません。
目の前の患者さんに何が起きているのかを考え、観察したことと病態、治療、看護をつなげていくことです。
このブログでも、ショックを一つの入口として、解剖生理、病態、アセスメント、治療、看護を少しずつ一緒に考えていきたいと思います。
もう少し詳しく知りたい方へ
集中治療看護師の教育や能力については、次のような資料も公開されています。
- 日本集中治療医学会「集中治療看護師 臨床実践能力要素一覧」
- WFCCN:集中治療看護教育に関する声明
- EfCCNa:欧州の集中治療看護コンピテンシー
- 英国CC3N:Step Competency Framework
※本記事で示した「学びの地図」と学習順序は、上記の文献やコンピテンシーを参考に、初学者がICU看護の全体像を捉えやすいよう、運営者が独自に整理・解釈したものです。


