インシデントのあと、一人で抱え込んでいませんか?――患者を守り、医療者も支えるために

インシデントが起きたとき、患者の状態を確認し、報告し、事実を整理する。その対応を進める中で、関わった医療者の気持ちや、働き続けるための支えにも目を向けられているでしょうか。

今回は、日本と米国の医療者への調査を読みながら、患者・家族への対応と、医療者への支援を共に考えます。

※登場人物と会話は学習用のフィクションです。新人が実際に事故を起こした設定や、研究参加者の発言の再現ではありません。

新人看護師①
新人看護師①

インシデントへの対応を学ぶとき、関わったスタッフがつらくなった場合、どう支えてもらえるのかも気になります。

新人看護師②
新人看護師②

私も、相談先があるかどうか、すぐには思い浮かばないな。報告や振り返りをしている間に、気持ちのことも相談してよいのかな。

対応を進めながら、関わった人も支える

患者・家族への説明や再発防止を進めることと、関わった医療者を支えることは、共に必要な取り組みです。

医療者支援を扱う際には、患者・家族が受けた影響を見失わないようにします。そのうえで、事実を確認し、学びを次につなげる人たちにも、相談できる相手や仕組みがあるかを考えたいと思います。

「きちんと振り返ること」と「一人で抱え込むこと」を同じにしない。その視点から研究を読んでみましょう。

看護師
看護師

二人とも気になるよね。必要な対応を進めながら、関わった人を支えることも考えたいね。坂コー、医療者への支援について詳しく教えてくれる?

坂コー先生
坂コー先生

うん。患者さんと家族への対応を大切にしながら、医療者の支援も考えていこう。今回は日米の調査だけれど、まず誰に何を尋ねた研究なのかを分けて読んでみよう。

日米の医療者に、何を尋ねた研究?

Takataniらは、日本の14病院で医療者にウェブ調査を行い、過去に米国で行われた調査の回答と比較しました。日本の回答者は542人で、職種、専門領域、経験年数をそろえる調整後は、各国185人ずつ、計370人が比較対象でした。[1]

一時点で回答を集める横断研究で、集中治療室(ICU:intensive care unit)の看護師だけを対象とした調査ではありません。また、日米で同じ時期に集めたデータでもありません。[1]

研究が扱う概念に、医療エラー等に関わった医療者が心理的な影響を受ける「セカンドビクティム症候群(SVS:second victim syndrome)」があります。[1] 「ビクティム」という表現は、患者・家族の被害や医療者の説明責任を小さく扱うための言葉ではありません。

「実際の経験」と「想定への回答」を分ける

この調査には、過去にエラーに関わった経験を尋ねる項目と、仮想の重大なエラーを想定して、心理的反応や行動を尋ねる項目が含まれています。[1]

想定への回答では、日本側は米国側より同僚との話し合いを選ぶ割合が低い一方、支援として役立つと思うものには同僚との対話が挙がっていました。両国とも、チームでの振り返りが役立つと考える回答が多く見られました。[1]

ここでの割合を「実際のエラー後に、その症状を発症した医療者の率」として読むと、研究の意味が変わってしまいます。何が起きた人の経験か、何を想定した回答かを確かめる必要があります。

また、役立つと思う支援を尋ねた調査は、その支援の効果を実証した介入研究とは異なります。相談や振り返りを行えば必ず回復する、とまでは言えません。

国の違いだけで、人を説明しない

職種などを調整していても、日米の全ての違いがそろうわけではありません。研究では、質問の表現や配置にも違いがあり、回答の比較には注意が必要です。[1]

この研究に対する関連論考でも、エラー経験を尋ねた項目の違いを踏まえ、国による差を単純に解釈しないよう指摘されています。[2]

「日本人は相談しない性格だから」とまとめてしまうと、相談しやすい仕組みや、周囲の関わりを考える余地がなくなります。結果を目の前の同僚へそのまま当てはめず、自分たちの職場ではどんな支援に届くのかを考える材料にしたいと思います。

事実を整理する場と、支えを求める場

ここからは、研究を踏まえたこの記事からの実践提案です。

勤務先の対応手順を確認するときに、報告先に加えて、関わった医療者の支援先も確かめてみます。

共に進めたいこと 確認するための問い
患者・家族への対応と再発防止 必要な報告・説明・事実確認を、誰とどう進めるか
関わった医療者への支援 気持ちや勤務上の困難を、誰に相談できるか

表は研究で効果を検証した手順ではなく、職場の仕組みを確認するための独自整理です。

事実を整理する場と、安心して気持ちを話す場が、同じ担当者・同じ場でよいかも含め、所属先の仕組みに沿って確認します。個人が責任の有無を判断したり、「話した内容は必ず秘密になる」と独自に約束したりせず、支援の範囲や情報の扱いも確かめます。

相談を受ける側なら、すぐに理由を説明させようとするより、まず何に困っているかを聴き、必要な担当者につなぐことを考えます。話したくないことを一度に全て話すよう求めないことも大切です。

相談先は、困る前にも確認できる

新人が支援の仕組みを尋ねるのは、実際に出来事が起きたあとに限りません。研修や面談の機会に、「関わったスタッフへの支援は、どこで相談できますか」と確認しておくこともできます。

先輩も、全てを自分だけで支えようとせず、上司、医療安全の担当、産業保健など、勤務先で利用できる仕組みを確かめます。体調や生活への影響が続く場合には、職場の相談先や医療機関への相談も選択肢です。

新人看護師①
新人看護師①

報告先は学んでいましたが、スタッフへの支援先は確かめていませんでした。相談できる相手と、どんな支援があるかを確認しておきたいです。

坂コー先生
坂コー先生

うん。二人とも、困ったときに誰へつながれるかを知っておこう。患者さんへの対応と、関わった人への支援を、チームで続けられるようにしたいね。

今日のひと工夫

自分の勤務先で、「インシデントの報告先」と「関わったスタッフの支援先」を一つずつ挙げてみてください。分からない部分があれば、研修や面談の機会に確認してみましょう。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

看護ランキング

参考文献

  1. Takatani Y, Minami T, Kato G, et al. The impact of medical errors on healthcare professionals: a cross-sectional propensity score-matched comparison of second victim syndrome between Japan and the United States. Crit Care. 2026;30:408. 原著
  2. Bornemann-Cimenti H, Szilagyi IS, Labenbacher S. Moral luck, shame, and which errors attract sanction: an alternative reading of the Japan–US comparison of second victim syndrome. Crit Care. 2026;30:518. 関連論考