ショックで乳酸値が上がるのはなぜ?――数字の向こうで起きていること

前回までの記事では、ショックは単に「血圧が低い状態」ではなく、組織への酸素供給や利用に問題が起きている状態であること、そして脳・皮膚・腎臓という「3つの窓」から変化に気づくことを考えてきました。

今回は、ショックの患者さんでよく測定される乳酸値について考えてみます。

※登場人物と会話は、学習のためのフィクションです。

看護師
看護師

乳酸が上がってきてるけど、患者さんの身体で何が起きているか分かる?

新人看護師
新人看護師

組織に酸素が届かず、嫌気性代謝になっているということですか?

坂コー先生
坂コー先生

組織への酸素供給が不足している可能性は、まず考えたいね。でも、乳酸値が上がる理由はそれだけではないんだ。数字だけで原因を決めないことがポイントだよ。

まず結論:乳酸値だけでは、上がった理由は分からない

乳酸値の上昇は、患者さんの状態を見直す重要な手掛かりです。

しかし、その数値だけでは、組織への酸素供給が不足しているのか、ストレス反応や薬剤が関係しているのか、乳酸を利用・処理する力が低下しているのかを区別できません。

乳酸値を読むときは、次の3つを意識しましょう。

  1. 高値の原因を一つに決めつけない
  2. 一回の値だけでなく、時間による変化を見る
  3. 数字とベッドサイドの変化を結びつける

そもそも乳酸とは?

乳酸というと、「酸素が足りないときに生じる老廃物」や「エネルギーの燃えカス」というイメージがあるかもしれません。

しかし、乳酸は身体にとって不要なごみではありません。

細胞がブドウ糖を分解する過程で生じるピルビン酸の一部は、乳酸へ変換されます。乳酸は酸素がある状態でも作られ、別の組織でエネルギー源として利用されることもあります。

血液中の乳酸値は、作られる量と、利用・処理される量のバランスによって変化します。[1]

乳酸値が上がる3つの主な仕組み

1.組織への酸素供給が不足している

ショックによって血流が不足し、細胞が必要とする酸素を十分に受け取れなくなると、乳酸の産生が増えることがあります。

例えば、出血で循環血液量が減ったり、心臓のポンプ機能が低下したりしている状況です。

この場合、乳酸値の上昇は組織低灌流を疑う重要な手掛かりになります。

2.ストレス反応や薬剤によって産生が増えている

重症患者さんでは、アドレナリンなどの働きによって解糖系が活発になり、明らかな組織低酸素がなくても乳酸の産生が増えることがあります。

また、けいれんや強い筋活動、アドレナリンやβ刺激薬などが関係する場合もあります。

「乳酸が高いから、必ず酸素が足りない」とは言い切れないのです。

3.乳酸の利用・処理が低下している

乳酸の利用・処理には肝臓が大きく関わり、腎臓も関与します。

とくに肝機能が低下している場合には、血液中の乳酸が減りにくくなることがあります。

「作られすぎているのか」だけでなく、利用・処理が追いついていない可能性も考える必要があります。[1]

実際の重症患者さんでは、この3つが重なっていることもあります。

新人看護師
新人看護師

酸素不足だけでなく、作られる量と処理される量の両方を考えるんですね。

坂コー先生
坂コー先生

そうだね。この患者さんでは、何が産生を増やして、何が処理を妨げているのかを考えてみよう。

「乳酸値が高い=ショック」とは限らない

乳酸値はショックを疑うときに重要な検査値ですが、乳酸値だけでショックの有無を確定することはできません。

反対に、乳酸値が上昇していなくても、意識状態の変化や皮膚の冷感、尿量の減少など、組織低灌流を疑う所見が現れることがあります。

「乳酸値が高いからショック」「正常だから大丈夫」という二択では判断できません。

一回の数値より「どのように変化しているか」

乳酸値は、治療や時間の経過とともにどう変化しているかを見ることが大切です。

低下していれば改善を示す可能性がありますが、それだけで組織灌流が十分に回復したと断定はできません。高値が続く場合も、低灌流だけでなく、薬剤や代謝、肝機能などを含めて原因を見直します。

ここでよく使われるのが「乳酸クリアランス」という言葉です。

ただし、血中濃度の低下は、乳酸が排出されたことだけを意味しません。産生が減ったのか、利用・処理が進んだのかを、数値の変化だけで区別することはできません。[1]

2026年のSurviving Sepsis Campaignでは、乳酸値が上昇している成人の敗血症患者、または敗血症性ショック患者で、乳酸値を繰り返し測定し、蘇生の判断に用いることが提案されています。

一方、初期輸液後は、乳酸値が正常になるまで輸液を続けるのではなく、乳酸値の低下と患者さんの状態を評価して、輸液を個別に判断することが示されています。[2]

目標は、乳酸値という数字だけを正常化することではありません。

乳酸値と「3つの窓」を一緒に見る

前回紹介した、組織灌流を捉える「3つの窓」を思い出してみましょう。

  • 脳:意識状態や反応に変化はないか
  • 皮膚:冷感、色調、毛細血管再充満時間に変化はないか
  • 腎臓:尿量が減っていないか

乳酸値の上昇に、これらの変化が重なっていれば、組織低灌流への警戒はさらに高まります。

一方、所見が保たれている場合も、組織低灌流を完全に否定できるわけではありません。他の原因も含め、病態と経過を合わせて考えます。

2019年のANDROMEDA-SHOCK試験では、敗血症性ショック患者で、毛細血管再充満時間を目標とする蘇生戦略と、乳酸値を目標とする戦略が比較されました。28日死亡率には、統計学的に有意な差は示されませんでした。[3]

この結果だけで「毛細血管再充満時間のほうが優れている」とは言えません。2026年のガイドラインでは、毛細血管再充満時間を、他の灌流指標に加えて用いることが提案されています。[2]

新人看護師
新人看護師

乳酸値だけを見るのではなく、患者さんの意識、皮膚、尿量と一緒に考えるんですね。

坂コー先生
坂コー先生

そうだね。検査値から分かることと、ベッドサイドで分かることをつないで考えよう。

ベッドサイドの看護師だから伝えられること

乳酸値の上昇を確認したとき、看護師は次の情報を時間経過とともに捉え、医療チームへ伝えることができます。

  • いつ、どの治療の前後に測定されたか
  • 前回からどのように変化したか
  • 血圧、脈拍、呼吸、体温の変化
  • 意識状態、皮膚所見、尿量の変化
  • 強い呼吸努力、悪寒・戦慄、けいれんの有無
  • 使用薬剤と、輸液・輸血・昇圧薬などへの反応

例えば、「乳酸値が4 mmol/Lです」と伝えるだけでなく、

「乳酸値が前回の2.5 mmol/Lから4.0 mmol/Lへ上昇しています。血圧は保たれていますが、直近2時間の尿量が減少し、手足の冷感が強くなっています。」

と伝えれば、数字と患者さんの変化が結びつきます。

継続して患者さんのそばにいる看護師だからこそ捉えられる情報があります。

先輩の質問に、もう一度答えてみる

看護師
看護師

乳酸が上がってきてるけど、患者さんの身体で何が起きているか分かる?

新人看護師
新人看護師

組織への酸素供給が不足している可能性があります。ただ、ストレス反応や薬剤による産生増加、肝臓などでの処理低下も考えられるので、乳酸値の推移と、意識・皮膚・尿量の変化を一緒に確認します。

坂コー先生
坂コー先生

いいね。数値を見て終わるのではなく、この患者さんで何が起きているかを考えられているね。

おわりに

乳酸値は、ショックや重症患者さんの状態を考えるうえで重要な手掛かりです。

しかし、乳酸値が高い理由は一つではありません。

大切なのは、なぜ上がっているのかを考え、乳酸値の推移と患者さんの変化を結びつけることです。

次回は、3つの窓の一つである「尿量」に注目し、なぜ腎臓が循環を捉える窓になるのかを考えてみたいと思います。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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※本記事は一般的な学習情報です。個々の患者さんの評価や治療は、病態、検査結果、使用薬剤などを踏まえ、医療チームで判断してください。

参考文献

  1. Bakker J, Nijsten MWN, Jansen TC. Clinical use of lactate monitoring in critically ill patients. Ann Intensive Care. 2013;3:12. 本文を読む
  2. Prescott HC, Antonelli M, Alhazzani W, et al. Surviving Sepsis Campaign: International Guidelines for Management of Sepsis and Septic Shock 2026. SCCM公式推奨
  3. Hernández G, Ospina-Tascón GA, Damiani LP, et al. Effect of a Resuscitation Strategy Targeting Peripheral Perfusion Status vs Serum Lactate Levels on 28-Day Mortality Among Patients With Septic Shock: The ANDROMEDA-SHOCK Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019;321(7):654–664. 本文を読む