口腔ケアで「拭く」と「磨く」は同じ?――毎日のケアを論文から考える

集中治療室(ICU:intensive care unit)で毎日行う口腔ケア。「口の中をきれいにする」と説明できても、清拭と歯磨き、それぞれの役割を聞かれると迷うことはありませんか。

今回は、歯磨きを含むケアについて調べた研究を読みながら、いつものケアを振り返ります。

※登場人物と会話は学習用のフィクションです。研究参加者の体験や発言を再現したものではありません。

新人看護師②
新人看護師②

口腔ケアで、口の中を拭くことと歯磨きには、どんな違いがあるのでしょうか。どちらもきれいにするケアだと思うのですが……。

看護師
看護師

何をきれいにしたいのか、どんな状態なのかで考えてみようか。「口腔ケアをした」という言葉だけでは、実際に何をしたのか分からないよね。

「口腔ケア」という名前の中身を確かめる

口腔ケアの記録を読むとき、まず確かめたいのは、そのケアの中身です。口のどこを観察し、どこにどのような働きかけをしたのか。同じ「実施済み」でも、そこで行われたことは同じとは限りません。

研究を読む場合も同じです。「口腔ケアがよかった」という見出しだけを覚えると、比較された方法が見えなくなります。今回の問いは、毎日のケアに歯磨きを含めた場合と、含めない場合とで、患者の結果に違いがあるか、というものです。[1]

看護師
看護師

ケアの名前だけでまとめず、実際にしたことを見ていくんだね。坂コー、歯磨きについて調べた論文もあるよね。詳しく解説してあげて。

坂コー先生
坂コー先生

うん。「何と何を比べたのか」から読んでみよう。結果を知るだけでなく、自分たちのケアとどこが似ていて、どこが違うかを考えると役立つよ。

15試験をまとめた研究で、何を比べた?

Ehrenzellerらは、入院中の成人を対象としたランダム化比較試験15件をまとめました。システマティックレビュー・メタ解析という、複数の研究を系統的に集め、結果を統合する研究です。[1]

登録された人数は合計10,742人ですが、病棟などの集団単位で割り付けた試験の影響を補正すると、有効サンプルサイズは2,786人です。さらに、院内肺炎の解析に使われたのは13試験・2,557人でした。「全体で何人」と「その結果を計算した人数」は分けて読みます。[1]

読むポイント 今回の比較
対象 入院している成人。人工呼吸中の患者を扱う試験が中心
比べたケア 毎日の歯磨きを含む口腔ケアと、歯磨きを含まない方法
主に確かめた結果 院内肺炎の発生

表は原著を基にした独自の整理です。歯磨きを含まない側の方法も試験ごとに異なるため、すべてを一つの「拭くだけのケア」とみなすことはできません。

肺炎の結果はどうだった?

院内肺炎について、歯磨きを含む側のリスク比は0.67、95%信頼区間は0.56〜0.81でした。[1]

リスク比(RR:risk ratio)は、比較する側の発生リスクを1としたときの比です。0.67は、相対的に約33%低いという意味です。「100人のうち33人の肺炎が減る」という人数の差ではありません。

95%信頼区間(CI:confidence interval)は、研究データに基づく推定の幅を示します。今回はその幅が、リスク比で差がないことを示す1より小さい範囲でした。

人工呼吸中の患者を扱った解析では、肺炎が少ない結果が認められました。一方、侵襲的人工呼吸を受けていない患者の解析は推定の幅が広く、その効果については不確かさが残ります。[1]

明日のケアへつなぐ前に、条件を読む

ここで大事なのは、「歯磨きがよさそうだから、全員に同じ方法で行おう」と一足飛びに決めないことです。

原著では、両群で同じ消毒薬などを併用した試験も含まれています。また、ケアをする人は方法を知っており、研究によってバイアスの懸念も異なります。この研究が検討した歯磨きの比較を、特定の消毒薬の効果へ読み替えることはできません。全員に適した回数や手技も、この論文だけで一律には決まりません。[1]

研究結果は、ケアを見直すための材料です。実際の手順は、患者の状態、施設の基準、必要な専門職との相談を合わせて考えます。「拭くケアは意味がない」と切り捨てる読み方では、比較条件も患者の違いもこぼれてしまいます。

実践の手がかりに、日本の口腔ケアガイドも

実際のケアを考える資料として、日本クリティカルケア看護学会の『気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド』(2021年2月・PDF)も紹介します。主な対象は、気管挿管下で呼吸管理を受ける成人患者で、人工呼吸器関連肺炎(VAP:ventilator-associated pneumonia)の予防を主目的としています。[2]

ガイドは口腔ケアを、次の二つに分けています。[2]

ケア 目的と役割
ブラッシングケア 歯垢を除去し、清拭や洗浄などで汚染物を回収して、良好な口腔環境を整える
維持ケア 口腔内の湿潤を保ち、整えた口腔環境を維持する

つまり、「磨いたら終わり」ではなく、汚染物の回収と、その後の口腔環境の維持まで考えるという整理です。「拭く」と「磨く」を単純な優劣で比べるより、目的の異なるケアをどう組み合わせるかに目を向けられます。[2]

回数の目安は、ブラッシングケアが1日1〜2回、維持ケアはブラッシングケアを含めて少なくとも1日4〜6回とされています。維持ケアだけを追加で4〜6回、という意味ではありません。患者の口腔状態や施設の状況に応じて決めることも示されています。[2]

ガイドには観察・準備・手技の解説もあります。2021年時点の実践ガイドで、全ての手技が強い根拠で確定しているわけではないことに留意し、今回のメタ解析と読み合わせます。研究の結果とガイドの回数を、一つの研究で証明された手順として結びつけず、患者の個別性と施設の手順を踏まえて活用したい資料です。[1,2]

「何をしたか」を言葉にしてみる

ここからは、論文を踏まえたこの記事からの実践提案です。

次に口腔ケアを振り返るとき、次の三つを言葉にしてみてください。

  • どのような口腔内の状態を観察したか。
  • その状態に対して、どこに、どのようなケアをしたか。
  • 実施中や実施後に、どのような反応・変化があったか。

これは新しい手順を追加するためのチェックリストではありません。自分が行っているケアを、先輩や次の勤務者と共有するための問いです。迷った点があれば、何が分からないのかも一緒に伝えると、具体的に相談しやすくなります。

例えば「いつもどおり実施しました」で終わらせず、「どこを観察し、どの部分のケアに迷ったか」まで説明してみる。そこから、方法を確かめる、患者の反応を一緒に見るなど、次の相談につながります。

新人看護師②
新人看護師②

ケアをしたかどうかだけを考えていました。何を見て、どこにどんなケアをしたのか、説明できるように振り返ってみます。

坂コー先生
坂コー先生

うん。毎日しているケアほど、目的と中身を言葉にする意味があるね。論文で分かったことと、目の前の患者さんに必要なことを、つなげて考えていこう。

次の口腔ケアで、目的と中身を確かめる

口腔ケアのあと、「見たこと・行ったこと・患者さんの反応」を一つずつ挙げてみてください。方法に迷った部分は、次のケアの前に先輩やチームへ相談してみましょう。

今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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参考文献

  1. Ehrenzeller S, Klompas M. Association Between Daily Toothbrushing and Hospital-Acquired Pneumonia: A Systematic Review and Meta-Analysis. JAMA Intern Med. 2024;184(2):131–142. 原著
  1. 日本クリティカルケア看護学会 口腔ケア委員会. 気管挿管患者の口腔ケア実践ガイド. 2021年2月. 実践ガイドPDF