集中治療室(ICU:intensive care unit)の中では、観察、処置、説明の準備が続いています。一方、家族はその動きの全てを見ることができません。
看護師が「少しお待ちください」と伝えた時間を、家族はどのように過ごしているのでしょうか。今回は、家族の体験を尋ねた研究から考えてみます。
※登場人物と会話は学習用のフィクションです。研究参加者の語りを再現したものではありません。

ご家族にお待ちいただくとき、何を伝えればよいのか迷います。説明の準備が整うまで、声をかけるのも難しく感じてしまって……。

迷いますよね。家族の体験を調べた研究では、待つことも、機器のある環境や患者さんの苦しむ姿を見ることなどと重なっていました。待っている間に何が分からないのか、目を向けたいですね。
家族の「分からない」に目を向ける
医療者には、いま何を確認しているのか、次に何を予定しているのかが見えていることがあります。しかし、その情報が家族にも伝わっているとは限りません。
何も説明がない時間に、家族が何を想像しているのか。質問したくても、誰に聞けばよいか迷っていないか。そうした問いを持つと、「待っている」という同じ行動の見え方が変わります。
家族が何も話していないときも、その理由をこちらで決めず、尋ねる余地を残しておきたいところです。

ありがとうございます。看護の場面でも、ご家族が何を気にされているか、一緒に考えたいですね。こちらが伝えたつもりのことも、確かめる必要がありそうです。

そうですね。医師と看護師で、何を説明できていて、どんな疑問が残っているか共有したいです。研究の対象になったご家族が、どのような方だったのかも確認して読みましょう。
どのような家族に、体験を尋ねた研究?
Kentish-Barnesらの研究は、家族への詳しいインタビューを分析した質的研究です。数値で介入の効果を比べるのではなく、人が体験をどのように受け止め、語るかをたどっています。[1]
対象は、48時間以上の侵襲的人工呼吸を受けた成人患者の家族で、患者のICU退室または死亡から3か月後に、臨床的に重要な心的外傷後ストレス障害(PTSD:post-traumatic stress disorder)の症状を認めた人でした。[1]
17人が参加し、内訳は遺族8人と、6か月時点で患者が生存していた家族9人です。ここでいう3か月は症状を評価した時点、6か月は患者の生存区分として示された時点です。[1]
家族全員を調べた発症率の研究ではなく、症状を示した家族の体験を深く理解するための研究として読みます。
この記事で紹介する研究内容は、公開抄録で確認できた対象・方法・結果の範囲です。
「待つこと」は、複数の体験の中にあった
研究では、突然の病気と日常生活の変化、機器のある環境や患者との関係の変化、苦しむ姿を見ること、待つこと、死に向き合う体験などが語られました。[1]
待つ時間だけを切り離すより、それまでの出来事や、患者の様子を見た経験と重なった時間として捉える視点が得られます。
ただし、この結果から「待たせたことがPTSDの原因」とは判断できません。特定の声かけで発症を防げるかも、この研究では検証していません。研究の語りを、家族を一つの型に当てはめるために使わず、自分たちが見落としていた問いを得るために読みたいと思います。
声をかける前に、三つのことを整理する
ここからは、研究を踏まえたこの記事からの実践提案です。
説明できる情報が限られているときも、「何も言えない」と一括りにせず、次の三つを整理してみます。
| 整理すること | 考えるための問い |
|---|---|
| 現在の情報 | いま確認できていて、家族に伝えられることは何か |
| 次の見通し | 次の説明や連絡について、伝えられる予定はあるか |
| 家族の疑問 | 家族がいま気にしていることを尋ねられているか |
表は研究の分類ではなく、説明と確認のための独自整理です。まだ分からないことは、そのまま分からないと伝え、未確定の時刻や回復の見通しを約束しないようにします。
また、声をかけるときに、全てを聞き出そうとする必要はありません。「いま、分からなくて気になっていることはありますか」。そんな問いから、家族が話したいことを聴く入口を作れます。話すことを望まない場合も、その意思を尊重します。
チームで引き継ぎたいのは、説明の有無だけではない
「医師から説明済み」という情報に、家族が何を尋ね、どこに疑問が残ったかを添えると、次の関わりを考えやすくなります。
例えば、病状そのものの説明を望んでいるのか、面会や連絡の方法を知りたいのか。質問の内容によって、つなぐ相手や準備する情報も変わります。病状の説明は担当医と確認し、看護師だけで未確定の予測を補わないことも大切です。
勤務交代のときも、家族の理解をこちらで評価し切るより、実際にどのような質問があったかを共有してみます。「理解されています」という一言より、残った疑問が見える伝え方を考えたいですね。

何を説明するかばかり考えていました。まずは、いま何が気になっているのかを尋ねて、答えられることと、担当の先生へ確認することを整理してみます。

うん。答えを全部持っていなくても、気にしていることを聴いて、必要な人につなぐことはできるね。何を伝え、何を確かめるかを、チームで考えていこう。
今日のひと工夫
家族への関わりを一つ振り返り、「伝えたこと」と「家族から聞かれたこと」を分けて挙げてみてください。次の勤務者へ伝えたい疑問が残っていないかも確認してみましょう。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。









