集中治療室(ICU:intensive care unit)では、モニターの数字を何度も確認します。その一方で、「値は保たれているけれど、いつもより苦しそう」と感じる場面もあります。
その気づきを、どう整理して伝えればよいのでしょうか。今回は、パルスオキシメータの測定値を動脈血の値と比較した研究から考えます。
※登場人物と会話、報告例は学習用のフィクションです。研究に記載された患者の場面ではありません。

経皮的動脈血酸素飽和度、SpO₂(peripheral oxygen saturation)は保たれています。でも、患者さんはいつもより苦しそうです。数字がよければ、少し様子を見てもよいのでしょうか。

その「いつもと違う」は大事にしたいね。SpO₂は役立つ情報だけれど、患者さんの状態を全部表す数字ではないよ。何を測っているのか、患者さんに何が起きているのか、合わせて考えよう。
SpO₂・SaO₂・PaO₂は、何が違う?
パルスオキシメータは、光を使って動脈血の酸素飽和度を推定する機器です。その表示値がSpO₂です。[2]
似た記号でも、次の三つは分けて考えます。
| 記号 | 日本語とフルスペル | 読むときのポイント |
|---|---|---|
| SpO₂ | 経皮的動脈血酸素飽和度:peripheral oxygen saturation | パルスオキシメータから得る推定値。単位は% |
| SaO₂ | 動脈血酸素飽和度:arterial oxygen saturation | 動脈血に含まれるヘモグロビンの酸素飽和度。単位は% |
| PaO₂ | 動脈血酸素分圧:arterial partial pressure of oxygen | 動脈血中の酸素の分圧。通常mmHgで表す |
SpO₂とSaO₂は比較できる酸素飽和度ですが、得られる方法が異なります。動脈血の検査結果を見るときも、酸素飽和度が実測値か計算値か、使用機器と報告項目を確認します。PaO₂は別の量なので、飽和度と同じ数字として並べません。[4]
また、パルスオキシメータでは二酸化炭素の値は分かりません。表示される酸素飽和度だけで、呼吸に関する全ての問題を評価することはできません。[3]

同じ「酸素の数字」だと思っていました。推定しているものと、血液で調べるものを分けて読むのですね。実際には、どのくらい違うのでしょうか。

日本のICUで、その違いを調べた研究があるよ。読むときは、全体の平均だけでなく、一人ひとりの測定でずれがあることにも注目してみよう。
日本のICU・10,698人を調べた観察研究
Takagiらは、日本の単施設ICUで、成人10,698人の診療データを解析しました。SpO₂とSaO₂の一致の程度や、その差と関連する要因を調べた観察研究です。[1]
公開抄録では、SpO₂からSaO₂を引いた平均の差は−1.2%と報告されています。飽和度同士の差なので、およそ−1.2パーセントポイントという読み方です。[1]
全員のSpO₂が、SaO₂より1.2ポイント低いという意味ではありません。 表示が実際より高く見える場合と、低く見える場合があります。平均の差を、そのまま個人の値の補正式にはできません。
研究では、SpO₂が保たれて見えてもSaO₂が低い「隠れた低酸素血症」に該当する患者も報告されました。また、腎機能や慢性透析、敗血症、循環の状態などと、差の方向との関連が示されています。[1]
この記事では、確認できた公開抄録の範囲を紹介しています。これらは観察された関連であり、透析を受けていれば一律に高く出る、と個人の測定値を決めつける材料にはできません。
「数字が違うかも」で、観察を終えない
患者の様子と表示が合わないときには、測定条件も確認します。英国の医薬品・医療製品規制庁(MHRA:Medicines and Healthcare products Regulatory Agency)は、低灌流、体動、センサーの位置などが精度に影響することを示しています。[3]
一方で、苦しさがあるたびに「センサーの誤差だ」と考えるのも早計です。機器の確認だけに集中して、患者への評価や必要な相談が遅れないようにします。
米国食品医薬品局(FDA:Food and Drug Administration)も、測定値を症状などと合わせて考えることを案内しています。[2]
報告は「値・様子・経過」を一緒に
ここからは、研究と公式資料を踏まえたこの記事からの実践提案です。確認や報告では、次の三つをひとまとまりにしてみます。
- 値と条件:いまの表示値、酸素投与などの条件、信号やセンサーの状態。
- 患者の様子:本人が訴える苦しさ、呼吸の速さや努力、意識などの観察。
- 経過:いつから何が変わり、確認後にどうなったか。
例えば「SpO₂は保たれています」だけで止めず、「表示値は保たれていますが、先ほどより呼吸が速く、本人も苦しいと話しています」と伝える。これは架空の報告例ですが、値だけでは伝わらない気がかりが見えるようになります。
数字が普段と同じでも、本人の訴えや観察した変化を添えて相談する理由になります。反対に表示値が変わったときも、条件と患者の様子を一緒に確認します。
必要な動脈血検査や追加評価は、その時点の状態と施設の対応手順に沿ってチームで判断します。今回の論文から独自の採血基準や酸素目標値を作ることはしません。急な悪化や強い呼吸苦がある場合は、機器の確認を終えるまで待たず、施設の緊急対応につなげます。

数字を確かめることと、患者さんの変化を伝えることを、両方行うのですね。「保たれていますが、ここが違います」と、気づいたことも一緒に報告します。

そうだね。数字と様子が合わないこと自体が、共有したい情報なんだ。値だけで安心せず、気がかりを言葉にしてチームにつなげよう。
今日のひと工夫
次にSpO₂を見るとき、「値・患者さんの様子・前からの変化」をセットで確かめてみてください。普段と違う点を、一文で伝える練習をしてみましょう。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献
- Takagi T, Fujii T, Nakamura S, Tsutsumi Y, Uezono S. Accuracy of Pulse Oximetry and Risk Factors Associated With Discrepancy From Arterial Oxygenation in Asian Patients in the ICU: An Observational Study. Chest. 2025;168(3):650–660. 原著/公開抄録
- FDA. Pulse Oximeter Basics.
- MHRA. The use and regulation of pulse oximeters: information for healthcare professionals.
- Radiometer. Oxygen saturation: sO₂. 測定項目の解説。









