ICUのベッドサイドに、患者さんやご家族の写真が置かれていることがあります。
元気だった頃の笑顔、家族旅行の一枚、お孫さんと写った写真。
今回は、その一枚の写真がもつ意味を考えます。このテーマは、私自身が研究として取り組んできたテーマでもあります。
※登場人物と会話は、学習のためのフィクションです。

今日、ご家族が写真を持ってきてくださったんです。ベッドの柵のところに置いたんですけど、処置のときに邪魔になりそうで……。どう扱えばいいんでしょうか。

大事な問いだね。置き場所の工夫ももちろん必要だけれど、その前に考えてほしいことがあるんだ。その写真は、ご家族にとって、そしてあなたにとって、どんな意味があるんだろう。
まず結論:写真は「その人」を思い出させてくれる
今回のポイント
- 看護師にとって写真は、患者さんを「治療の対象」から「生活してきた一人の人」として捉え直すきっかけになる
- 家族にとって写真は、回復への願いであり、手出しのできない中でのケアでもある
- 一方で、元気だった頃とのギャップが、家族のつらさを強めることもある
ICUでは「その人らしさ」が見えにくくなる
ICUの患者さんは、鎮静薬で眠っていたり、人工呼吸器のために話せなかったりします。周りはモニターや点滴、たくさんの機器に囲まれています。
そうした環境では、看護師も気づかないうちに、患者さんを「モニターの数値」や「治療の対象」として見てしまいがちです。
その人がどんな仕事をして、何を大切にし、どんな顔で笑う人なのか。ICUでは、それが見えにくくなります。
看護師にとっての写真の意味
私は、ICUで働く看護師が、ベッドサイドの写真にどのような意味を見いだしているのかを研究しました(文献1)。
看護師への面接では、写真は、目の前の患者さんを「生活者」として捉え直すスイッチのような役割をもっていました。
例えば、
- 写真を見て、「いつもはこちらで髪を分けていたのかな」と、整容の仕方を考える
- 「この頃はよく旅行に行かれていたんですか?」と、ご家族との会話が生まれる
- 険しく見える表情を、「怒っている」ではなく「伝えられないもどかしさ」かもしれない、と読み解く
といった意味を看護師が捉えていました。これは面接で語られた経験を整理した結果で、写真を置くことによる予後改善などの効果を検証した研究ではありません。

写真を見たら、〇〇さんが釣りが好きな方だって分かりました。意識が戻ったら、その話をしてみたいです。

それはとてもいい関わりだと思う。写真が、あなたと患者さん、そしてご家族をつないでくれたんだね。
家族にとっての写真の意味
次に、ICUに入室している患者さんのご家族にとって、ベッドサイドの写真にどのような意味があるのかを研究しました(文献2)。
ご家族は、「代われるものなら代わりたい」と願いながら、ICUでは直接できることがとても少ない状況に置かれています。
その中で持ってこられる写真には、
- 「この姿まで戻ってほしい」という願い
- 少しでも元気づけたいという、ご家族なりのケア
- 「この人は本来こういう人なんです」と医療者に伝えたい思い
が込められていることがあります。
写真には、入院前の姿を知ってもらい、本人への関心を保ってほしいという家族の思いも込められています。研究は、家族への面接から写真の意味を整理したもので、誰にでも同じ意味や効果があるとは限りません。
写真は「諸刃の剣」でもある
一方で、写真には注意が必要な面もあります。
元気だった頃の笑顔と、目の前の、管につながれた姿。そのギャップが、ご家族の悲しみやつらさを強めてしまうことがあります。
だからこそ、
- 「写真を持ってきてください」と、意味を考えずに勧めない
- 持ってきてくださった写真を、雑に扱わない
- 写真をきっかけにした会話の中で、ご家族の表情や言葉に注意を向ける
ことが大切です。

良かれと思って「写真を飾りましょう」と言うのも、場合によってはつらくさせてしまうんですね。

そうなんだ。写真そのものより、写真を通して私たちがどう関わるかが問われているんだと思う。
明日からのベッドサイドで
冒頭の質問に戻ります。写真をどう扱えばよいでしょうか。
- 本人・ご家族の意向と施設のルールを確かめる:可能なら本人の意向も聞き、写った方のプライバシー、同室の人などに見える範囲、処置・感染対策への影響に配慮して置き場所を相談する
- 写真について一言たずねてみる:「素敵なお写真ですね。どちらで撮られたものですか?」
- 聞いたことをチームで共有する:患者さんの人となりを、記録や申し送りでつなぐ
- 紛失・破損に注意する:転床や退室のときには、ご家族へ確実にお返しする
まとめ
- ICUでは、患者さんの「その人らしさ」が見えにくくなります。
- 看護師にとって写真は、患者さんを生活してきた一人の人として捉え直すきっかけになります。
- ご家族にとって写真は、回復への願いであり、手出しのできない中でのケアでもあります。
- 一方で、元気だった頃とのギャップが、ご家族のつらさを強めることもあります。写真の意味を考えて関わることが大切です。
たかが一枚の写真、ではありません。その一枚が、ICUという場所にその人の人生を連れてきてくれています。
📚 このテーマについて、私が書いたもの
- 坂木孝輔,高島尚美:ICUにおける看護師にとってのベッドサイドの写真の意味.日本クリティカルケア看護学会誌.2017;13(3):11–20.
看護師にとっての写真の意味を明らかにした研究です。 - 坂木孝輔,高島尚美:ICU入室中の患者家族にとってのベッドサイドの写真の意味.日本クリティカルケア看護学会誌.2018;14:57–65.
ご家族にとっての写真の意味を明らかにした研究です。
※関連する執筆の書誌・公開ページへのリンクです。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。










