2026年10月、2025年の心不全診療ガイドラインに合わせて内容を更新しました。
心不全の採血でよく見るBNP(B-type natriuretic peptide:B型ナトリウム利尿ペプチド)。「高いと心不全」「低ければ大丈夫」と覚えていませんか。数値の目安と、数値だけでは判断できない理由を整理します。会話は学習用のフィクションです。

先生、BNPが高いと、その患者さんは心不全なのでしょうか?

心不全を考える大切な手がかりだけど、それだけでは決められないよ。何を測る検査なのかと、値に影響する条件を一緒に見ていこう。
BNPは、心臓への負荷を知る手がかり
BNPは、主に心室への伸展刺激などに応じて合成・分泌されるホルモンです。心不全では心臓にかかる負荷を反映する重要なバイオマーカーとして、診断の補助、予後の評価、経過の確認などに使われます(第4章3.1.1、p.34)。
ナトリウムや水の排泄を促すなどの作用があり、心臓に負荷がかかったときの身体の反応の一部です。「心臓がどれほど悪いかを、そのまま点数にしたもの」ではありません。
NT-proBNP(N-terminal pro-B-type natriuretic peptide:B型ナトリウム利尿ペプチド前駆体N端断片)も心不全の評価に使う検査です。BNPとNT-proBNPは別の測定項目で、数値の目安も異なります。同じpg/mLという単位でも、数値をそのまま置き換えたり、固定の倍率で換算したりはできません。
まず「どの場面の目安か」を確認する
2025年ガイドラインの表13は、ナトリウム利尿ペプチド上昇のカットオフ値を、外来と入院・心不全増悪時に分けて示しています。
| 測定項目 | 外来のカットオフ値 | 入院・心不全増悪時のカットオフ値 |
|---|---|---|
| BNP | 35 pg/mL以上 | 100 pg/mL以上 |
| NT-proBNP | 125 pg/mL以上 | 300 pg/mL以上 |
出典:第4章3.1.1、表13、p.35。外来での評価や専門医への紹介の目安は、同章の図12、p.34にも示されています。
この表は「以上なら心不全と確定」「未満なら絶対に心不全ではない」という線引きではありません。無症状でも心臓の構造・機能の異常がある場合などを含め、症状、身体所見、胸部X線、心電図、心エコーなどにつなげて判断します。
旧来の説明にあるBNP 18.4 pg/mLという値は、検査の基準値として目にすることがあります。一方、上の35 pg/mLは心不全の可能性を拾い上げる目安です。検査室の基準範囲と、診断・紹介のためのカットオフ値を混同しないようにしましょう。
また、急な呼吸困難で緊急評価が必要な場面に、外来の目安をそのまま当てはめて待機してはいけません。入院・心不全増悪時の値も、それだけで診断を確定したり、緊急性を判定したりするものではありません。強い症状があれば、値の高低にかかわらず医療チームで速やかに評価します。

基準より低い値なら安心、というわけでもないのですね。何が値に影響するのでしょうか?

腎機能が低下していたり、心房細動があったりすると高くなりやすいよ。逆に肥満では低く出ることがあるんだ。低い値だけで、息苦しさを心不全ではないと片づけないようにしよう。
高くなる条件、低くなる条件を一緒に見る
| 見る視点 | 解釈で注意すること |
|---|---|
| 腎機能低下 | BNP・NT-proBNPが高くなる要因。数値を心不全の程度だけに結びつけない |
| 心房細動、年齢など | 値に影響する背景として確認する |
| 肥満 | 値が低く出ることがあり、低値だけで除外しない |
| 心不全以外の疾患 | 上昇することがあるため、症状や他の検査と照合する |
出典:第4章3.1.1、本文・表13、pp.34–35。
HFpEF(heart failure with preserved ejection fraction:左室駆出率の保たれた心不全)、とくに肥満を伴う場合では、ナトリウム利尿ペプチドが正常域のことがあります。症状があるのに値が低いときには、他の原因も含めて追加評価を考えます(同章3.1.1、p.34)。
EF(ejection fraction:駆出率)の値で心不全をどう分類するかはHFrEFとHFpEFの違い、診断の全体像は心不全ってどうやって診断するの?にまとめています。
経過を見るときも、数値と患者さんの変化をつなげる
同じ患者さんの検査値を追うときも、検査項目、採血日、症状、体重、うっ血所見、腎機能、治療経過などを合わせて確認します。前回がBNP、今回がNT-proBNPなら、数値の大小を直接比較できません。
学習例として「BNPが前回80 pg/mL、今回は160 pg/mL」という情報を見てみましょう。値は2倍ですが、これだけで「心不全が2倍悪化した」とは言えません。採血の間隔や腎機能の変化を確認し、息切れ、体重、浮腫などの変化とつなげて共有します。値だけで薬を増減したり、飲水量を決めたりするものではありません。
また、BNPは組織への血流不足そのものを直接示す検査ではありません。循環の観察は3つの窓、乳酸値の読み方、尿量の変化と合わせて考えましょう。

まず検査名と単位を確認して、患者さんの症状や腎機能も見ます。数字だけで「大丈夫」「悪化した」と決めないことが大切なのですね。

そうだね。「今回の値」と「前回から何が変わったか」をセットで伝えてみよう。数値を患者さんの状態につなげることが、看護で役立つ読み方だよ。
今日のひと工夫
採血結果を見るとき、検査名・単位・採血日を先に確認しましょう。そのうえで「症状・体重・浮腫・腎機能のどれが変わったか」を1つでも添えて報告してみてください。
参考文献
日本循環器学会・日本心不全学会:2025年改訂版 心不全診療ガイドライン(2025年3月28日発行、2025年12月19日更新)。第4章3.1.1、図12・表13、pp.34–35。基準値とカットオフ値の位置づけを区別し、旧図表は転載せず独自の表に整理しました。
本記事は学習用です。個別の診断・治療は担当医療チームの判断に従ってください。










