せん妄に差がなくても、面会を広げる理由は?――家族中心のケアの指針を読む

面会時間の外にご家族が来られたとき、患者さんの休息と家族の希望の間で迷うことはありませんか。全5回シリーズの第2回は、面会についての推奨を読みます。

本記事は、米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine:SCCM)の「成人ICUにおける家族中心のケアのガイドライン2024(2025年公表)」を読み解くシリーズです。

※学習用の解説です。会話と声かけの例はフィクション、推奨の日本語訳は本記事の独自訳です。

この記事で扱う推奨

独自訳:ICUでは、家族の滞在を柔軟に認める面会方針を基本とすることを推奨する。強い推奨/根拠の確実性:低い。2017年版の条件付きの推奨から、強い推奨に変わりました。

出典:[1,2] 本編PDF5–6、要約e460–e461。

新人看護師②
新人看護師

面会時間外にご家族が来られたとき、規則だからと断ってよいのか迷います。ガイドラインは面会をどう考えていますか?

坂コー先生
坂コー先生

面会を柔軟にできる方針を、基本にしようと勧めているよ。でも、その場で看護師が規則を変えるという意味ではないんだ。本人の希望と安全、施設の手順を確かめて、対応をチームで相談しよう。

「面会を広げる」は、24時間の無制限を意味しない

米国集中治療医学会(Society of Critical Care Medicine:SCCM)の成人集中治療室(Intensive Care Unit:ICU)向け指針は、柔軟な家族の滞在を基本にします。どれだけ長く、何人まで受け入れるかを、全施設共通に決めたものではありません。[1]

本人の休息や希望、感染対策、ほかの患者さんのプライバシー、必要なスタッフ体制を考える必要があります。看護師個人が施設の規則を独断で変えるための推奨でもありません。

推奨の強さと確実性の読み方

推奨の「強さ」と「根拠の確実性」は別のものさしです(くわしくは第1回)。条件付きの推奨は一律の義務ではなく、本人・家族の希望、安全、施設の体制をふまえて考えます。

新人看護師②
新人看護師

この研究ではせん妄に有意差がなかったのに、面会を広げるのは強い推奨なのですか? 患者さんへの効果だけで決めるのではないのですね。

坂コー先生
坂コー先生

その通り。家族の不安や満足度も大切な結果なんだ。ただし、研究で面会を広げた方法も一様ではないし、主な研究はコロナ前。どんな状況でも安全、という保証ではないよ。

ブラジルの試験では、何が変わった?

Rosaらの2019年の無作為化比較試験(Randomized Controlled Trial:RCT)は、ブラジル36の成人ICUで、最大12時間の柔軟な面会と家族教育を組み合わせた方針を、通常の制限付き面会と比較しました。面会時間だけを単独で変えた介入ではありません。[3]

評価 柔軟な面会群 制限付き面会群 読み方
患者のせん妄:主要評価項目 157/831人(18.9%) 170/845人(20.1%) 有意差なし
家族の不安得点:副次評価項目 中央値6 中央値7 柔軟な面会群で良好
家族の抑うつ得点:副次評価項目 中央値4 中央値5 柔軟な面会群で良好

不安・抑うつは病院不安抑うつ尺度(Hospital Anxiety and Depression Scale:HADS)の各下位尺度で、いずれも0〜21点、高いほど症状が強い尺度です。患者のせん妄と家族の症状は、対象も意味も違います。

せん妄の差は、患者さんの背景などを調整した値で−1.7ポイント(95%信頼区間−6.1〜2.7)で、統計的な差はありませんでした。ただし「差がない」ことは、「まったく同じ」と証明されたわけではありません。

新人看護師②
新人看護師

面会できない事情があるときも、理由を伝えたうえで、次に話せる機会を一緒に考えたいです。時間を広げるだけでは足りないのですね。

坂コー先生
坂コー先生

うん。本人も家族も休めること、説明を受けられること、来られない人にも情報が届くことを考えたいね。制限が必要なら、理由と見直す条件を共有しておこう。

せん妄に有意差がなくても、なぜ強い推奨?

指針はこの一つの試験だけで決めたのではありません。8件のRCTなどを検討し、家族の不安・抑うつ、満足度といった結果、面会が、回診やケアへの参加など、ほかの家族の関わりの土台になることも重視しています。[1,2]

家族の不安が和らぐことは、患者のせん妄が減ることとは違う価値です。「せん妄が減らないなら面会は不要」とは読みません。一方、「面会を広げれば患者・家族の問題が解決する」とも言えません。

面会を制限するときは、理由と次の見通しを伝える

指針は、面会が患者ケアやスタッフの負担・燃え尽きに大きな悪影響を与える場合には、制限もありうるとしています。主要な面会研究はコロナ前で、感染症流行下の安全性を一律に保証しません。[1]

たとえば「今は処置のため、お入りいただけません。終わりましたら担当者からご案内します」のように(本記事の例です)、理由と次の見通しをチームでそろえます。確定していない終了時刻を約束しないことも大切です。来られない家族には、施設で実施できる電話等の連絡方法を相談します。

明日からできる一歩

面会の相談を一件振り返り、本人・家族の希望、制限の理由、次の連絡機会が共有されていたかを確かめましょう。(本記事からの提案です)

家族ケアを、事例でもう少し学びたい方へ

面会の機会を広げたあと、家族をどう迎え、どのように声をかけるか。実際の関わりで迷うこともありますよね。
そんなときの学びに、『あらゆる場面で使える 救急・ICUナースのための家族ケア』をご紹介します。日常の家族ケアから難しい状況への対応まで、理論と実践をつなげて考えられる一冊です。

編著の立野淳子先生は、この領域を牽引してこられた第一人者です。私も以前、学会の委員会でご一緒し、家族ケアについて多くのことを学ばせていただきました。

私も本書の一部(pp.200–206)を分担執筆しています。面会をきっかけに、家族への関わりをさらに学びたい方は、ぜひ手に取ってみてください。

シリーズ目次

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参考文献

  1. Hwang DY, et al. Society of Critical Care Medicine Guidelines on Family-Centered Care for Adult ICUs: 2024. Crit Care Med. 2025;53:e465–e482. 本編
  2. Hwang DY, et al. Executive Summary: Society of Critical Care Medicine Guidelines on Family-Centered Care for Adult ICUs. Crit Care Med. 2025;53:e459–e464. 要約
  3. Rosa RG, et al. Effect of Flexible Family Visitation on Delirium Among Patients in the Intensive Care Unit: The ICU Visits Randomized Clinical Trial. JAMA. 2019;322:216–228. 原著
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