ICUで働き始めると、患者さんの様子を「せん妄っぽいです」と報告したくなる場面があります。
今回は、その「っぽい」を、チームに伝わる言葉に変える方法を考えます。
※登場人物と会話は、学習のためのフィクションです。

夜中に〇〇さんが点滴を触ろうとしていて、話もかみ合わなくて……。先輩に「せん妄っぽいです」と言ったら、「っぽいって何?」と聞き返されてしまいました。

先輩は意地悪で聞いたわけじゃないと思うよ。「っぽい」だと、受け取った人によって想像する状態がバラバラになってしまうんだ。ICUには、脳の状態を伝えるための「共通言語」がある。今日はそれを整理しよう。
まず結論:「鎮静の深さ」と「せん妄の有無」を分けて伝える
今回のポイント
- せん妄は「脳の臓器障害」。ICUだから仕方ない、ではない
- まずRASSで「鎮静・覚醒の深さ」、次にCAM-ICUで「せん妄の有無」を評価する
- 見逃されやすいのは、静かな「低活動型せん妄」
- 評価の目的は、原因を探してケアを始めること
伝え方の例はこうです。
「〇〇さん、RASSは+2、CAM-ICUは陽性です。」
これだけで、受け取った人は「落ち着きがなく動きが多い状態で、せん妄の評価が陽性なんだな」と同じ状態をイメージできます。
せん妄は「脳の臓器障害」
呼吸不全は肺の障害、心不全は心臓の障害です。同じように考えると、せん妄は脳の障害です。
ICUのせん妄は、死亡率の上昇や入院期間の延長、退院後の認知機能の低下と関連することが報告されています。「ICUにいるから仕方ない」と軽く考えず、ほかの臓器障害と同じように、原因を探して対応する状態として捉えることが大切です。

「臓器障害」と言われると、急に見逃しちゃいけないものに感じます。

そうなんだ。でも、せん妄は目に見えにくい。だからこそ、ツールで「見える化」する必要があるんだよ。
感覚だけでは見逃してしまう
ICUの日常のケアの中で、医師や看護師がせん妄を見つけられているかを調べた研究があります。その結果、ツールを使わない日常の観察では、せん妄の多くが見逃されていたことが報告されています。
特に見逃されやすいのが、低活動型せん妄です。
| タイプ | 見え方 |
|---|---|
| 過活動型 | 落ち着きがない、チューブを抜こうとする、大きな声を出す |
| 低活動型 | ぼんやりしている、反応が鈍い、ずっと眠っているように見える |
| 混合型 | 過活動と低活動が入れ替わる |
暴れている患者さんには誰でも気づきます。しかし、静かに眠っているように見える患者さんの中にも、せん妄が隠れていることがあります。「落ち着いているから大丈夫」と考えず、ツールで確かめることが大切です。
ステップ1:RASSで「鎮静・覚醒の深さ」を評価する
RASS(Richmond Agitation-Sedation Scale)は、患者さんの鎮静・覚醒の深さを、+4(好戦的)から−5(昏睡)までの10段階で評価するスケールです。
- 0:覚醒していて、落ち着いている(せん妄がないという意味ではありません)
- プラス側:落ち着きがない、興奮している
- マイナス側:眠っている、呼びかけや刺激への反応が乏しい
RASSが−4や−5のように深い鎮静や昏睡の状態では、せん妄を評価することができません。まず「評価できる状態か」を確かめるのが、RASSの役割の一つです。
ステップ2:CAM-ICUで「せん妄の有無」を評価する
CAM-ICU(Confusion Assessment Method for the ICU)は、人工呼吸中で話せない患者さんにも使える、せん妄のスクリーニングツールです。次の4つの所見で判断します。
- 急性の精神状態の変化、または変動がある
- 注意力が低下している(施設で採用している検証済み日本語版の手順・採点方法に従って確認する)
- 意識レベルが変化している(RASSが0以外)
- 思考がまとまっていない(簡単な質問や指示への反応で確かめる)
1と2があり、さらに3か4のどちらかがある場合に、CAM-ICU陽性と判断します。
RASSが0でもCAM-ICU陽性になることがあります。また、痛みの自己申告が難しい場合は、CPOTなど施設で採用している行動評価尺度を用います。
施設によっては、ICDSC(Intensive Care Delirium Screening Checklist)を使っていることもあります。大切なのは、施設で決めたツールを、決めたタイミングで、毎回同じ方法で使うことです。

ツールで陽性が出たら、そこで評価は終わりですか?

むしろ、そこからが始まりなんだ。陽性が出たら「なぜ起きているのか」を探す。ツールは、ケアを始めるための合図なんだよ。
ステップ3:原因を探す――「変えられるもの」に目を向ける
せん妄の原因は、大きく3つに分けて整理すると考えやすくなります。
| 分類 | 例 | 看護師の関わり |
|---|---|---|
| 準備因子(もともとの背景) | 高齢、認知症、脳の病気の既往 | 変えられない。リスクが高いと認識する |
| 直接因子(脳に直接影響するもの) | 低酸素、感染、電解質異常、脱水、薬剤 | 医師と連携して原因を探し、取り除く |
| 促進因子(環境やストレス) | 痛み、不動、身体拘束、騒音、昼夜逆転、睡眠不足 | ケアで環境を整える |
看護師の力が特に発揮されるのは、促進因子です。
- 痛みはないか(スケールで評価する)
- 夜は眠れているか、昼は起きていられるか
- 眼鏡や補聴器は使えているか
- 時計やカレンダー、家族の写真など、時間や自分を取り戻す手がかりはあるか
- 身体拘束は本当に必要か
こうした一つひとつのケアは、ABCDEFバンドルにもつながっています。PADISには2018版に加え、2025年のfocused updateがあります。これは一部領域の更新で、2018版全体を置き換えるものではありません。
冒頭の場面を言い直すと
冒頭の新人看護師の報告を、今回の内容で言い直してみます。
「〇〇さん、22時ごろから点滴を触る動作があり、RASSは+2、CAM-ICUは陽性です。痛みは本人がNRSで2と答えています。日中はほとんど眠っていて、昼夜が逆転しているようです。せん妄と考えます。原因の確認と、睡眠のリズムを整えるケアについて相談したいです。」
「っぽい」が、評価・原因の見立て・相談したいことに変わりました。
まとめ
- せん妄は「脳の臓器障害」です。ICUだから仕方ない、と考えないことが大切です。
- まずRASSで鎮静・覚醒の深さを、次にCAM-ICUでせん妄の有無を評価し、分けて伝えます。
- 静かな低活動型せん妄は見逃されやすいため、ツールで確かめます。
- 評価の目的は、原因を探してケアを始めることです。特に、痛み・睡眠・環境などの促進因子には、看護師のケアで関われます。
📚 このテーマについて、私が書いたもの
- みんなの呼吸器 Respica 2020年4号(第18巻4号)
「こんなとき私はこう使う! 鎮痛・鎮静のガイドライン」(坂木孝輔・大友千夏子)。PADISガイドラインを、ICUの事例の中でどう使うかを紹介しました。 - 坂木孝輔,内野滋彦,宮城久仁子:ICU入室患者の記憶――予後に与える影響と妄想的記憶に対する介入.日本集中治療医学会雑誌.2019;26:241–248.
せん妄の中で生まれる現実ではない記憶(妄想的記憶)が、退室後の不安やPTSDとどう関係するのかをまとめた総説です。
※関連する執筆の書誌・公開ページへのリンクです。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
※本記事は、せん妄の評価に関する一般的な学習情報です。個々の患者さんの評価や治療は、医療チームで判断してください。
参考文献
- Devlin JW, Skrobik Y, Gélinas C, et al. Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation/Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2018;46(9):e825–e873. https://doi.org/10.1097/CCM.0000000000003299
- Spronk PE, Riekerk B, Hofhuis J, Rommes JH. Occurrence of delirium is severely underestimated in the ICU during daily care. Intensive Care Med. 2009;35(7):1276–1280. https://doi.org/10.1007/s00134-009-1466-8
- Ely EW, Inouye SK, Bernard GR, et al. Delirium in mechanically ventilated patients: validity and reliability of the confusion assessment method for the intensive care unit (CAM-ICU). JAMA. 2001;286(21):2703–2710. https://doi.org/10.1001/jama.286.21.2703
- Sessler CN, Gosnell MS, Grap MJ, et al. The Richmond Agitation-Sedation Scale: validity and reliability in adult intensive care unit patients. Am J Respir Crit Care Med. 2002;166(10):1338–1344. https://doi.org/10.1164/rccm.2107138
- Lewis K, Balas MC, Stollings JL, et al. A Focused Update to the Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Anxiety, Agitation/Sedation, Delirium, Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med. 2025;53(3):e711–e727. https://doi.org/10.1097/CCM.0000000000006574









