「ICUの論文を看護の目で読む」の2回目です。
今回紹介するのは、イギリスのDonaldsonさんたちの研究です。ICUで治療を受けた経験のある人たちに、ICUでの体験、ICUで亡くなることについての考え、そして「どのくらい助かる見込みがあれば、またICUの治療を受けたいか」を尋ねています。
ICUで働く私たちにとって、少し立ち止まって考えたくなる研究です。
※登場人物と会話は、学習のためのフィクションです。

ICUの治療って、「助かる可能性があるなら、できることは全部やる」ものだと思っていました。

助かる見込みだけでなく、治療の利益と負担、本人が大切にしていることを一緒に考える必要があるね。そして、ICUの治療を受けること自体が、患者さんにとって大きな体験でもある。実際に治療を受けた人たちがそれをどう感じているのか、聞いてみた研究があるんだ。
どんな研究?
- 対象:ICUで治療を受けた経験のある成人26人(主にイギリス。ICU退室後のフォローアップ外来や患者会から参加)
- 方法:質問紙と半構造化インタビューを組み合わせた混合研究法
- 尋ねたこと:
- ICUで患者として過ごした体験
- ICUで亡くなることについてどう思うか
- 将来、再びICUの治療を受けるとしたら、どのくらいの生存の見込みがあれば受け入れられるか
何が分かった?
1.ICUでの体験は「人生を変えるような体験」だった
参加者は、ICUで守られている安心感など、良い体験も語っていました。その一方で、
- 死と向き合うこと
- 自分で自分をコントロールできなくなること
- すべてを他者に頼らなければならないこと
- せん妄による体験
といった、つらい体験も語られました。参加者はICUでの体験を、自分を変えるような体験として表現していました。
2.ICUでの死には、つらさへの懸念と安心への期待の両方があった
自分の体験をもとに、多くの参加者は、ICUで亡くなることは、望ましくない死の体験になりうると考えていました。一方で、熟練したスタッフ、プライバシー、苦痛を和らげるケアによって、ICUが良い看取りの場になりうるとの見方もありました。
これは、生存者が自身の経験から死を想像して答えた結果です。亡くなった本人の体験を測定した研究ではありません。
3.「どのくらい助かる見込みがあれば、ICUの治療を受けるか」は人によって大きく違った
再びICUの治療を受け入れられる生存の見込みは、
- 中央値で30%
- ただし、1%から90%までと、人によって大きな幅がありました(四分位範囲 5〜50%)
- どんなに見込みがあってもICUの治療は受けたくない、と答えた人も1人いました。中央値30%を、治療の適応や入室判断の線引きにはできません

1%でも受けたい人と、90%ないと受けたくない人がいるんですね……。

この幅の大きさこそが、この研究の大切なところだと思う。「普通はこう考えるはず」という正解はない。だから、一人ひとりに聞く必要があるんだ。
この研究を読むときの注意点
- 参加者は26人と少なく、25人がWhiteと回答し、英国各地と米国1人の参加でした。
- ICU退室後の外来や患者会から参加した方々で、ICUの体験をよく覚えている人や、関心の高い人が多く含まれている可能性があります。
- 日本では、治療の選択にご家族が大きく関わることが多く、文化的な背景も異なります。結果をそのまま日本に当てはめることはできません。
看護の目で読む
1.「ICUの治療を受けること」自体が、患者さんにとって大きな体験である
この研究の参加者が語った「コントロールを失う」「すべてを頼る」という体験は、私たちが毎日のケアの中で目にしているものです。
体位変換、吸引、清拭。私たちにとっては日常のケアでも、患者さんにとっては、自分では何もできない状態で身体を委ねる体験です。声をかけてから触れる、何をするか説明する、できることは患者さん自身に選んでもらう。そうした小さな関わりが、患者さんの体験を少しでも和らげることにつながるかもしれません。
私も共著者として参加した国内の研究では、12時間以上人工呼吸管理を受けた患者さんに、ICUを退室する前にストレス経験をうかがいました。その結果、8割近くの方が口の渇きを、7割近くの方が動けないこと、話せないこと、気管チューブによる苦痛、痛み、緊張を、中程度から非常に強いストレスとして経験していました。今回のイギリスの研究で語られた「コントロールを失う」体験は、日本のICUの患者さんにとっても身近なものだといえます。
2.「良い死」を考えることも、ICU看護の一部である
ICUは命を救う場所です。同時に、残念ながら亡くなる方もいる場所です。
この研究の参加者の多くは、ICUで亡くなることはつらい体験になりそうだと考えていました。だからこそ、救命を目指す治療と並行して、もし亡くなるとしたら、その時間をどう過ごしてもらえるかを考えることも、ICU看護の大切な役割だといえます。
3.価値観を「聞く」ことから始める
助かる見込みをどう受け止めるかは、人によって大きく違いました。
意識のある患者さんであれば、元気なときに何を大切にしてきたのか。意識のない患者さんであれば、ご家族から、その人がどんな人だったのかを聞く。
看護師は、患者さんやご家族の価値観に、いちばん近くで触れることができる職種です。そこで聞いたことを、医療チームの話し合いにつなげていくことが求められます。

ご家族との何気ない会話の中にも、大事な情報があるかもしれないんですね。

そう。そして、聞いたことを記録やカンファレンスで共有すること。それが、患者さんの価値観をチームの判断につなげる第一歩になるんだ。
まとめ
- ICUで治療を受けた経験のある26人は、ICUでの体験を「死と向き合い、コントロールを失い、すべてを頼る」体験として語りました。
- ICUでの死への懸念と、専門的なケアによる安心への期待の両方が語られました。
- 再びICUの治療を受け入れられる生存の見込みは中央値30%でしたが、1〜90%と人によって大きく違いました。
- 看護師は、患者さんの体験を和らげるケアと、価値観を聞いてチームにつなぐ役割を担っています。
📚 このテーマについて、私が関わった文献
- 高島尚美,村田洋章,西開地由美,山口庸子,坂木孝輔,瀧浪將典:12時間以上人工呼吸管理を受けたICU入室患者のストレス経験.日本集中治療医学会雑誌.2017;24:399–405.
人工呼吸を受けた患者さんが、ICUで何をつらいと感じていたかを、退室前に直接うかがった研究です(私も共著者として参加しました)。 - 坂木孝輔,内野滋彦,宮城久仁子:ICU入室患者の記憶――予後に与える影響と妄想的記憶に対する介入.日本集中治療医学会雑誌.2019;26:241–248.
ICUでの記憶が、退室後の生活にどう影響するのかをまとめた総説です。 - 吉野靖代,蘆田薫,坂木孝輔,大友千夏子,白藤尚美:本邦ICUにおけるEnd of Life Careの現状――単施設における診療録調査.死の臨床.2022;44(1):158–165.
ICUで亡くなった患者さんの診療録から、意思決定の実際を調べた研究です(共著者として参加)。
※関連する執筆の書誌・公開ページへのリンクです。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
※本記事は、論文の内容を学習目的で紹介するものです。
参考文献
- Donaldson T, Keywood K, Frith L, Holm S. Intensive care decision-making, survival and dying well: a mixed methods study with people who have been intensive care patients. Anaesthesia. 2026;81(10):1367–1377. https://doi.org/10.1111/anae.70285










