集中治療室(ICU:intensive care unit)を出たあと、患者はどのような生活へ戻っていくのでしょうか。「退室できた」という節目の先にも、痛みが残り、日常の動作に困ることがあります。
今回は、退室3か月後の痛みを調べた研究を読みながら、ICUからつないでいきたい情報を考えます。
※登場人物と会話、生活場面の例は学習用のフィクションです。原著の患者の発言を再現したものではありません。

ICUにいる間は痛みを何度も確認しますが、退室後の生活までは、なかなか想像できていません。私たちが引き継げることはあるのでしょうか。

痛みが何点かに加えて、どこが、いつから、何をすると痛いかも大事な情報だね。退室後の研究を読むと、その情報がどんな暮らしにつながるかを考えるきっかけになるよ。
退室3か月後に、どのような痛みがあった?
Yinらは、中国・浙江省の一つの病院で、ICUを退室した成人を追跡しました。対象は初回のICU入室で、48時間を超えて滞在した患者です。退室90日後に電話で痛みを確認し、追跡を完了した328人を解析しました。[1]
新たな慢性痛を報告したのは328人中109人、33.2%でした。研究では、入室前にはなかった痛みが退室後も続いているかを尋ねています。もともと慢性痛があった人でも、それとは別の新たな痛みがあれば含まれます。[1]
入室前に慢性痛がなかった286人に限ると、新たな痛みがあったのは79人、27.6%でした。この二つの割合は、分母となる人たちが異なります。[1]
全てのICU患者の3人に1人に起こると、そのまま当てはめるのではなく、この施設で3か月の追跡を完了できた人たちの結果として読みます。
肩の痛みと、日常の仕事への影響
新たな慢性痛があった109人では、肩が最も多く報告された部位で、46人、42.2%でした。これは全328人を分母にした割合ではありません。また、複数の部位に痛みがある人もいました。[1]
研究では、簡易疼痛質問票(BPI:Brief Pain Inventory)を使い、痛みの強さだけでなく、活動、睡眠、普段の仕事などへの影響も調べています。最も影響が大きかった領域は、普段の仕事でした。[1]
「仕事」という言葉から、職場への復帰だけを思い浮かべる必要はありません。その人が日々担っている活動に、痛みがどう関わっているかを尋ねる視点を持ちたいところです。
例えば、着替える、物に手を伸ばす、横になって休む。そのような場面で困っていないかを尋ねることもできます。これらはこの記事からの質問例で、原著の患者の具体的な体験談ではありません。

同じ痛みの点数でも、眠れるか、いつもの動作ができるかで、困り方は違いそうですね。「どのくらい痛いですか」の次も、聞いてみたいです。

うん。例えば「痛みのために、いちばん困るのはどんなこと?」と尋ねると、点数だけでは見えない話につながるね。その人が大事にしている生活を、一緒に考えたいところだよ。
関連する要因が分かっても、原因は決めつけない
研究では、入室前からの慢性痛、人工呼吸の日数、強い炎症が続いた日数と、新たな慢性痛との関連が示されました。[1]
ただし、観察研究で得られた関連から、人工呼吸を短くすれば慢性痛を防げる、と結論することはできません。肩の痛みの原因も、この研究だけで特定できません。
一つの施設の結果で、追跡できなかった人の状態も同じとは限らないため、割合を広く一般化する際には注意が必要です。この記事では、この結果を特定の運動や薬剤、未検証の予防法へつなげず、痛みと生活への影響を継続して確かめる視点として受け取ります。
ICUから次のケアへ、何を伝える?
ここからは、論文を踏まえたこの記事からの実践提案です。
退室時の引き継ぎで、痛みの評価とともに、分かっている範囲の経過を伝えてみます。新たな痛みか、以前からあった痛みかが分からない場合は、その不確かさも残します。
| つなぎたい情報 | 具体的に確かめること |
|---|---|
| 痛みの場所と経過 | どこが、いつから痛むか。以前の痛みとの違いはあるか |
| 生活・活動への影響 | どの動作や休息で困るか。本人は何を気にしているか |
| ケアと反応 | 何を行い、本人の訴えや動作がどう変わったか |
| 次の確認 | まだ評価できていないこと、継続して見たいことは何か |
表は研究で効果を検証した引き継ぎ様式ではなく、情報をつなぐための独自整理です。
例えば、退室の準備が進んでいるときにも、「動くとどこが痛むか」「その痛みで何がしづらいか」を確認する余地があります。本人がまだ話しにくい場合には、評価できていない項目を無理に埋めず、次に確かめてほしいこととして伝えます。
痛みの点数を、その人の言葉につなげる
普段の評価で痛みの強さを数字にすることには意味があります。その数字に、その人が何に困っているかを添えると、次の支援を考える情報が増えます。
「痛みは軽い」とまとめる前に、本人が眠れているのか、動くときに避けていることがあるのかを聴く。本人にとっての困りごとは、こちらが想像したものと違うかもしれません。
ICUの看護師が退室後の問題を全て解決する必要はありません。いま分かっている情報を丁寧につなぎ、次の場所でも確認できるようにする。その積み重ねも、回復後の暮らしを考える看護につながります。

退室後の痛みまで、ICUだけで解決しようと考えなくてもよいのですね。いまの痛みと困っている動作、まだ確認できていないことを、分けて伝えてみます。

そうだね。退室という節目で、その人の痛みの情報も次へつないでいこう。何点かに加えて、何ができるとその人が助かるのかまで考えられるといいね。
今日のひと工夫
痛みを尋ねたあとに、「その痛みで、いちばん困っているのはどんなことですか?」と一つ添えてみてください。聞けたことを、次のケアや引き継ぎにどう生かせるか考えてみましょう。
今回も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
参考文献
- Yin J, Yu T, Shen R, et al. Incidence and Associated Factors for Chronic Pain After ICU Discharge: A Prospective Study. Nurs Crit Care. 2026;31(6):e70715. 2026年9月30日オンライン公開。 原著










